権利関係調べる度に頭がパンクするイラストレーター、さらえみ(@saraemiii)です。
VTuberとして配信活動をすると、権利的に「どこまでやって大丈夫なの?」と気になるところも出てきます。
特にVTuberは、自分のモデルから配信内容まで著作権が絡んで来る場面が多々あります。
今回は、VTuber活動を始めたい方が知っておくべき権利を、わかりやすく整理して紹介します。

一見ややこしそうな権利関係も、事前に要点だけでも知っておくと充分なリスクヘッジになります。
要点を知っておくと「これは権利的に良いのか?」と気づけるので、調べたり準備をすることができます。
楽しく活動をするためにも、基本を把握しておきましょう。
VTuberの大前提・・・制作者との信頼関係が重要視される
もちろん他の仕事でも信頼関係はとても大事ですが・・・
VTuber界隈には、以下のような文化もよく見られます。
- モデルイラストレーターを『母』として表記
- モデリングしたクリエイターを『父』として表記
- 制作物に関わった人を細かくクレジット表記
といった、視聴者にも見える形でクリエイターへのリスペクトを示す事が多いです。



クリエイターとの信頼を重要視しているVTuberのおかげで、クリエイターの発展にも繋がっていると思います。
ただ、クリエイターさんによっては『活動の制限になりかねないので表記しなくていい』というケースもありますので、勝手にやらずに事前に確認しておくと良いです。
1:VTuberモデル関連の著作権
VTuberモデルを…
すべて自分で作った
↓
権利はすべて自分のもの
ですが、
クリエイターに依頼して作った
売ってあるものを購入した
↓
権利はクリエイターにあるかも?
という事もあります。
VTuberモデルに絡んだ権利を整理していきます。
VTuberモデル制作前に確認しておきたい『著作権』の範囲
クリエイターが作品を作り出したら自動的に発生するのが著作権です。
著作権には多くの権利が含まれていて、作品がクライアントに渡っても、著作権が許可か譲渡されない限りは著作者(クリエイター本人か制作会社)の権利になります。
VTuberモデルを作ってもらった時に、権利の許可を取れるかどうか知っておきたい主な8項目は以下の通り。
- モデルのお披露目と実績公開のタイミング
- 著作者のクレジット表記の有無(配信の概要欄やSNSなど)
- 広告収益・スパチャ・メン限などの収益化配信
- モデルのスクショを使った告知やサムネイル利用
- グッズ絵やファンアートなど他者に描いてもらう
- 他クリエイターによる髪型やメイク・衣装の変更
- ノベルティや特典グッズなど無料の二次利用
- アクスタやコンサートなど有料の二次利用



クリエイターとしては、VTuberモデルは何年も使われるのを想定して制作された大事な作品。
例えば、信頼していたクライアントが、勝手に一部の色やデザインを変えたとなると、パフォーマンスが低下して廃業になりかねないくらい精神的ダメージも大きいです。
双方信頼を保ってトラブル無く円滑に活動を続けていきたいですよね。
著作権は他にも・・・
- 誰でも使える汎用モデル → 商用グッズ化NGで安く購入可
- 幅広い活動は想定しない → 配信の権利だけのお手頃価格
- 多方面での展開を見据える大手 → 全ての権利を譲渡するため高額
・・・というように、権利によって料金にも影響があります。
権利を切り離して許可している理由
私の場合、VTuberモデル制作において
・広告収益・スパチャ・メン限などの収益化配信
・モデルのスクショを使った告知やサムネイル利用
・他者に描いてもらう
・髪型や衣装の変更
・ノベルティ等、無料の二次利用
以上の権利は、のびのびと活動していただきたいので初期費用内に含めています。
その他、グッズなど有料商品化まで想定されるなら、著作権譲渡契約を推奨しています。
- 幅広い展開を想定していない活動者もいる:お手頃価格で提供できる
- グッズ等は新規絵にすると盛り上げに繋がる:クリエイター文化の発展
(というかグッズ用は私も別に描けるとうれしい・・・) - 幅広い商用利用は譲渡で存分に活用して欲しい:1つ1つ許諾の手間も省ける
といった考えで、基本的にはこの形にしています。
デザイン・イラスト・モデリングが別々のクリエイターの場合
VTuberモデルは、デザイン・イラスト・モデリングが別々のクリエイターになる場合がよくあります。
デザイナーとイラストレーターの場合
モデルを制作する際に描き起こされた、デザイン画やモデルイラストに著作権が発生します。
- デザイナーさんには『VTuberモデルのデザイン』以外に使用する場合
- イラストレーターさんには『VTuber活動で想定される使用の範囲』
- 両者にVTuberモデルのお披露目と実績公開のタイミング
- 著作者のクレジット表記の有無(配信の概要欄やSNSなど)
を事前に確認しておくと安心です。



お披露目と実績公開のタイミングは、有耶無耶にせず事前に擦り合わせしておくと・・・
・お披露目前に公開されてしまう事故を防ぐ
・お披露目と同時に実績公開してもらい宣伝に繋がる
・クリエイターとの信頼が強化されて円滑な活動ができる
といったメリットがあります。
モデリングにもデータに著作権が発生
モデリングもクリエイターによって動かし方に創作性があり、Live2Dデータ等に著作権がかかります。
モデラーさんに確認や契約が発生しそうな事例としては・・・
- 広告収益・スパチャ・メン限などの収益化配信は可能か
- モデルを使ってMVを制作したい
- モデリングと同じポーズのグッズを制作したい
- 他者に別ポーズなどの再モデリングを依頼したい
- VTuberモデルそのものを他者へ譲りたい
- 著作者のクレジット表記の有無(配信の概要欄やSNSなど)
・・・といった場合になります。



絵柄の権利ではないので、VTuberモデルそのものを使って特殊な事をする場合に、権利を確認するようにしましょう。
モデルデザインを他のキャラに寄せるのは・・・避けた方が良い
有名アニメキャラや有名VTuberにほとんどそっくりな形にデザインするのは、避けた方が良いです。
著作権的にもアウトになる可能性もありますし、大手キャラクターは商標法で類似デザインもアウトになる可能性が高いです。
著作権 | 商標法 | |
---|---|---|
権利発生条件 | 作品が出来たら無料で自動発生 | 有料の登録申請が必要 |
守る対象 | 人が制作した『創作物』 | 商品やサービスを示す『ブランド』 |
保護期間 | 作者の死後70年まで | 登録から10年ごとに更新が必要 |
違反の判断 | 親告罪:権利者の判断次第 | 非親告罪:消費者に混乱を与えたか等 |



特にVTuberは、たまたまどこかが似ていても、制作の過程や作風で『完全に同じ』ところまではいかないのでは?とは個人的には思います。
他者とデザインが被るのは、
・本人の個性や良さが出にくくなる
・視聴者から見た印象も悪く映る
・作り直しブランドの立て直しで費用増
と、利用価値よりもデメリットが強くなるかなとも思います。
著作者や実績として公表するかどうかも確認を
VTuberモデルを利用するにあたって
- お披露目や実績として公表する → 公表権
- クレジット表記をするかどうか → 氏名表示権
- 色や形を無断で改変はできない → 同一性保持権
この3種の権利は、著作権の中の『著作人格権』にあたり、著作者(クリエイター本人か制作会社)の確認が必要になります。
そこで『著作人格権を行使しない』という契約で、制作者を非公表にする事もできますが・・・
前述の通り、クリエイターを公表するVTuber文化が視聴者にも根付いているため、公表することで視聴者からも好印象を持たれやすいといった面があります。
小さい事かもしれませんが、トラブルを避けるためにも制作前から確認しておくのを推奨します。



・どちらかが不祥事を起こした場合のリスクヘッジに非公表を
・視聴者から制作の問い合わせが来ないように公表を
・・・を選ぶケースもあるようです。
が、絵柄からファンには制作者が特定される事も多いのでは・・・と界隈を見ていると感じます。
2:イラスト関連の著作権
VTuberはモデルが出来たら終わりではなく、イベントのビジュアルやアクスタなど、イラストを活用するシーンも多いです。
VTuber活動で発生しそうな、イラスト関連の権利を整理していきます。
権利の範囲が料金に影響
クリエイターに依頼して支払う料金には『制作費用』と『著作権の料金』が含まれています。
著作権の料金が変わる例としては・・・
- 期間や場所など特定の範囲にだけ使用 → 費用を抑えられる
- 範囲を縛らず全てに利用したい → 膨大な権利費用がかかる
- ファンクラブ用なので実績非公表にしたい → 基本公表するクリエイターだと費用増になるかも?
・・・などなど、権利範囲によって支払う料金が大きく変わる事があります。
他の媒体でも使用する場合は『二次利用』
1つのイラスト作品をSNS掲載用だったけれどポスターにしてリアル事務所に掲載したい・・・といった場合『二次利用』になります。



私の場合、SNS用を無料掲載のポスターに・・・くらいだと二次利用料は取りませんが「SNS用を印刷するとガビガビになるので、キレイに印刷できるように高解像度版をお渡ししますよ!!!」となりそうです。
こういったこともあるので連絡はしましょう。
収益化配信から販売グッズまで『商用利用』
金銭が発生する利用はすべて『商用利用』になります。
- 広告収益・スパチャ・メン限などの収益化配信
- 販売用グッズの絵柄として活用
- 雑誌の表紙や掲載用イラスト
- 駅前ポスターやCMなど広告として活用
- 有料イベントの登壇者イラスト
- 企業案件配信用のサムネビジュアル
・・・といったものは、金銭が発生している『商用利用』扱いです。
1回の依頼料金で済むケースや、販売個数から都度支払うケースもあるので、面倒でもしっかり確認しておきましょう。
『著作権譲渡』は受付ない場合も多い
著作権譲渡は、自分の作品が良いようにも悪いようにも好きにされるリスクがクリエイターにあります。
そのため権利の許可はしつつも、著作権譲渡を一切受け付けないクリエイターもいます。
権利の譲渡はハードルの高い行為と認識をしておくと、ズレのない取引がしやすいかと思います。



モデル以外でVTuber活動でのイラスト活用だと、大半は『許諾』で充分賄えるのではと思います。
3:配信活動で注意しておきたい著作権
そのほかにもVTuberとして活動する際に、知っておきたい権利を確認していきます。
イラスト素材や写真素材
著作権フリーの素材は、配信での使用頻度も高くなります。
- 商用利用はNG
- 10点まで無料
- クレジット表記必須
・・・といった場合もあるので、利用規約は確認しておきましょう。
BGM・SE・音素材
配信する際にBGMや効果音などの音素材もよく使うと思います。
VTuberによくある使用事例を紹介します。
フリー素材を使う
動画配信でよく使われるのは、音関連もフリー素材が多いです。
配信者御用達の有名なフリー音楽サイトはこちら





中には有名YouTuberやVTuberやCMが使っている曲もあります・・・!
ショート動画で有名楽曲が使えるのは『包括契約済み』のため
YouTubeショートやTikTokで有名楽曲が使えるのは、YouTubeやTikTokといったプラットフォームが包括的なライセンス契約をしているためです。
そのおかげで、気楽に楽曲に載せた踊ってみたが投稿できて、権利者にも使用料が支払われるようになっています。
歌ってみた動画が投稿できるのは『包括契約』+『音源許可がクリア』なため
VTuberによくある有名楽曲の『歌ってみた動画』が投稿できるのは、
- YouTubeやニコニコ動画で包括的なライセンス契約がある
- 誰かがカバーした「使用OK」の伴奏が公開されている
- または、楽曲を作った本人が「使用OK」の伴奏を公開している
といった背景があって出来るようになっています。
最近では、ボカロPや超有名アーティストも「使用OK」として伴奏データを公開しているケースもかなり多くなりました。
使わせてもらう伴奏にはそれぞれのガイドラインに沿って使用します。



使用OK伴奏ならクリアされてると思いますが、包括契約されている曲かどうかは楽曲によるということは念頭に置いておきましょう。
楽曲やボイスに関してはこちらの記事も参考になります


ゲーム実況・二次創作でお絵かき雑談
ゲーム・二次創作の元作品にももちろん著作権が絡んできます。
注意したいのは、大手有名配信者がやっていたから真似して同じものをやってみようとすること。
大手有名配信者は、利用しても良いコンテンツが企業間で別途契約されている可能性もあります。
最近では、実況や2次創作が元コンテンツの人気に繋がるケースも増えています。
そこで元コンテンツの作品や企業が、配信や二次創作用のガイドラインを設定している事も非常に多くなっています。
ガイドラインに沿って、推しコンテンツを楽しく配信していきましょう。



ガイドラインの無い作品は、やめておいたほうが無難です。
許可の無い作品利用は、同人活動と同様に著作権者に訴えられたらアウトという認識を持ちましょう。
自分のVTuberをファンアートにして欲しい場合
VTuberは比較的ファンアートに寛大な文化が定着しています。



もちろん人によりますが・・・
VTuber本人が利用しても良い事を前提にOKを出しているケースが多いです。
ファンアート用ハッシュタグを設定
SNS拡散用に、Xなどでファンアート専用#ハッシュタグを設定しているVTuberさんが多いです。
ファンアートがごちゃつかないよう、他者と被らない命名にしましょう。



デビュー時に視聴者と相談して決める場合もありますね!
ガイドラインをWEBに掲載
ファンアートはじめ二次創作について、ガイドラインを制定してWEBサイトに掲載するのもVTuber文化として定着しています。
- ファンアート制作について
- センシティブ/NSFW表現の可否
- 売買が発生する二次創作/同人活動について
- 配信の切り抜き動画作成について
- 公式素材の利用の範囲
・・・などを記載されています。



ガイドラインがあるとファンは安心して推し活ができます!
他のVTuberを参考に設定してみて、問題があれば都度更新すると良いと思います。
著作権の『許諾』と『譲渡』の相場
クリエイターや依頼内容によりピンキリですが・・・
『許諾』・・・制作料金の20〜80%程度
『譲渡』・・・制作料金の2倍~数十倍
と、言われており、二次利用料は、三次、四次・・・と複数回重なると少しずつ安くなる場合もあります。
初期費用を抑えたいなら『許諾』
前述の通り、著作権譲渡はクリエイターがあまり渡したく無いものでもありハードルが高いため、高額になりやすいです。
第三者への譲渡は契約で設定
著作権者であれば権利上は第三者への譲渡も可能ですが、発注者側もクリエイター側もVTuberモデルや作品を勝手に第三者に渡されてはたまりませんよね。
『第三者への譲渡をしない』というのも契約で定めることができます。
有名になってきたら『商標登録』も視野に
著作権だけでは守りきれない、以下のようなケースは『商標登録』で保護できます。
- キャラクター名をブランド化したい
- オリジナルロゴをブランド化したい
- 広告・販促で大々的に使う予定がある
- 活動規模が大きくなり模倣を防ぎたい
上記以外にも著作権が・・・無断でやると損害賠償を請求される可能性も
- 書籍に掲載したい → 複製権
- 所有権を他者に移す → 譲渡権
- 再モデリングや3D化 → 翻案権
などなど、他にもこのような権利が著作権に含まれています。
許諾や譲渡を得ず無断で著作権にひっかかる事をやってしまうと・・・それまで使った分の使用料+慰謝料+弁護士費用などの損害賠償を請求される場合があります。
損害賠償額は、ケースバイケースで数万~数百万円になることも普通にありえます。



たくさんあって難しそうな権利関係ですが、スルーしてると社会的にも金額的にも後々大変な事になります。
私はご依頼相談をいただいた際には、できるだけ事前に説明するようにしていて、わかりにくい場合は都度相談していただけたらと思っています。
著作権についてVTuber以外の事例も知りたいならこちらも


何かあれば・・・利用規約・ガイドライン・著作権者に相談
ここまで様々な著作権事例を紹介しました。
ややこしさはありますが、利用や制作依頼の前に、まずは利用規約・ガイドラインを確認するのが最善です。
それでも不明点があれば、著作権者に相談してみましょう。



個人が大手企業に相談しても、1人1人個人に対応する時間がないため、回答が得られないケースもあります。
利用規約・ガイドラインの範囲内で利用しましょう。
事前に契約書・書面で残しておくのがベスト
法律的には口約束でも契約にはなりますが、言った言わないになるのがトラブルの元です。
ベストなのは契約書ですが、難しい場合でもメールやチャットログ等で残しておくとリスクヘッジになります。
最近はオンラインで契約できる便利ツールも増えています。
スマホでも簡単にできる契約書メーカー


文化庁の契約書作成支援システム
オンラインでサイン・捺印・管理ができるサービス


トラブルが解決しなければ専門家に相談を
VTuber関連について相談できる弁護士も増えています。
トラブルが大きくなりケンカに発展すると、当事者だけで話し合ってもかえってこじれてしまうことがあります。
そんな時は、弁護士に相談するだけでも解決の糸口が見えてくることがあります。
VTuber専門サービスが増加中


専業フリーランスならこちらでも相談可


クリエイターに発注・依頼する時に気をつけたいこと
著作権以外にも、クリエイターに発注する際に以下のようなことは気をつけておきたいです。
よかったら見てみてください。
著作権以外のVTuberに関連する法律をまとめました


スムーズに失礼の無い依頼ができるメールの書き方


権利を把握して楽しいVTuber活動を
大ボリュームな著作権をできるだけ噛み砕いて紹介してみました。
複雑に権利が絡み合うVTuber活動ですが、クリエイターと協力して発展していくのは他では味わえない楽しさです。
この記事で得た知識を活かしてVTuber活動を楽しく続けてもらえたらと思います。