元アニメーターで現イラストレーターの、さらえみ(@saraemiii)です。
アニメの仕事では、原画をキレイになぞって清書する「クリンナップ」という作業があります。
トレース台で透かしてなぞるだけ………と思っていたら、繋ぎ跡が残る、ふにゃふにゃ線になる、トレース元と全然違う!といったことになりがちです。
アニメーターさんはどうやってキレイな線を引いているのか、コツを紹介します。
動画マンの仕事「クリンナップ」とは?
原画やアニメに必要な枚数分の絵(中割りをした絵)を清書する作業です。
原画や中割りをした絵は、ほぼ完成された絵ですが、動きや演出最優先で最短時間で描かれており、彩色のために取り込んだり放送に載せるには統一感の無い線になっています。
それをトレースして整えるのが「クリンナップ」「クリーンナップ」と呼ばれる作業です。
放送に載る線になるので、これがぐちゃぐちゃだとせっかく綺麗に描かれたアニメも台無しになってしまいます。
長く線を引くコツ!力を入れすぎないこと
アニメを見てるとわかるはず…長い髪の毛や画面いっぱいの輪郭。
手描きの商業アニメは全てクリンナップがかかっています。長い線を引く事は必須。
紙の端から端まで、均一の太さで長い線を引けるようにならなければいけません。
普通に鉛筆で描く状態ではそれだけ長い線は難しいので、何度か練習が必要です。
コツは利き手ではない方で紙をしっかり支えて、鉛筆を持つ方は力を入れすぎずに手首だけでなく腕ごと動かすことです。
手首だけで動かしても短い線しか引けません。
手首をあまり動かさず腕ごと動かすと長い線が引きやすくなります。
練習じゃA4用紙いっぱいの大きさの○や線をひたすら描いてました・・・
線をつなげる時は「入り」「抜き」で繋げる
繋げた線はどうしてもつなぎ目に違和感が出るためなるべく繋げないほうが良いです。
が、どうしても繋げないと厳しい巨大サイズの原画や動画も存在します。
A4を四方に繋げた、A2サイズで描く時もありました!
画面が大きくスクロールする時はそんな大きさになります。
机いっぱいで動かすのも大変。
そういった時は上記画像のように繋げる前の線を抜きで終わらせて、繋げる線を入りで引き、繋ぎ目がわからないように描きます。
硬い柔らかい質感などのニュアンスを汲み取って線を引く
基本的に均一な線を引くのがクリンナップですが、メカや人工物など硬いものはシャープで硬い線を引き、やわらかい髪の毛などは抜きを活かした線でやわらかさを出します。
鉛筆でシュッシュッと描かれたような原画の線から、そういったニュアンスを汲み取りつつ、正しい線を選んで清書していく必要があります。
これが出来ず線がズレてしまうと、動きがガタガタのアニメーションが出来上がってしまうのです。
クリンナップにかけられる時間は僅か
綺麗に清書しなければいけないものの、何十枚何百枚も絵があるアニメなので1枚のトレースにそんなに時間はかけていられません。
新人さんは、慣れていないから時間がかかる上にさらに描き直しで1枚に丸1日かかることも…
現場では1日に十枚以上はクリンナップ出来ないと仕事に支障が出てきます。
修正は消しゴムで綺麗に消えなければNG
消し残りが出ると後の工程でパソコンへの取り込みに支障が出るため、綺麗に消えない場合は描き直しになる事もあります。
細かいところは「字消し版」を使う事も
アニメの絵は非常に細かい造形になる事もあります。
入り組んだ作画の1つだけ消したい…!という時は「字消し版」を使う事もあります。
「字消し版」は本来製図などの精密画に使われることが多いです。
サッと細かい部分を消せるアナログには便利な道具です。
定規はNG?綺麗に見えるなら使って良い場合も
漫画家さんが使う雲形定規、曲線を引くのに便利ですよね。
アニメの現場で使ってOKかどうかははっきりしない感じでした。
定規で鉛筆線が擦れて紙が汚れるおそれもあるので使わない方も多いです。
慣れてくると定規使わずに引けたほうが早くて楽になります。
単にトレースするだけじゃない重要なお仕事
クリンナップは、一見二度手間で地味に見えるものの、とても重要な仕事です。
限られた時間で良質なアニメを制作するには、これが無いと前の工程である原画も、次の工程である彩色も気持ちよく仕事が進みません。
1枚クリンナップするだけでも思ったより大変&達成感もすごいので、興味ある人は試してみてください。